
介護保険制度を利用してリフォームを考えているものの、制度の内容や申請方法がわからない方も多いのではないでしょうか。
「介護保険制度の住宅改修」では、手すりの設置や段差解消などのリフォームを行う際に、最大18万円の補助が受けられます。
本記事では、介護保険制度の住宅改修の概要や対象のリフォーム、補助金を受け取るまでの流れを詳しく解説します。
介護保険制度を利用したリフォームのメリットや併用できる自治体の助成金制度なども紹介するので、ぜひ参考にして介護負担の軽減や介護が必要な方の生活の向上につなげられるようにしましょう。
目次
1.介護保険制度の住宅改修とは?
「介護保険制度の住宅改修」は、介護を必要とする方が自宅で安全かつ快適に暮らせるようにするための、住宅リフォームに対する補助制度のことです。介護が必要な方やその家族が生活しやすくなるように、手すりの設置や段差解消など、自宅の設備を整えることを目的としています。
対象になるのは在宅での介護を支援するための比較的小規模なリフォームです。介護保険制度の住宅改修の対象者や補助額などを、以下の表にまとめました。
対象者 | 在宅で生活している被介護者 ※被介護者:介護を必要とする方 ※要介護1~5および要支援1~2 |
---|---|
対象となる住宅 | 本人が居住する住宅 |
補助額 | 上限18万円 ※支給限度額20万円のうち、1~3割が自己負担 |
対象リフォーム |
・手すりの取り付け |
原則、支給限度額の20万円に達すると、それ以降は介護保険制度を利用したリフォームができません。ただし、1回のリフォームが支給限度額の20万円に満たない場合は、上限に達するまで複数回に分けて利用が可能です。
例外として、要介護状態の区分が3段階以上上がった場合は、再度20万円分の補助が受けられます。また、介護保険制度を利用してリフォームを行ったあとに転居した場合も、再度補助が受けられます。
2.介護保険制度の対象リフォーム
介護保険制度を活用できるのは、おもに以下6つのリフォームです。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 扉の取り替え
- 床の材質変更
- 便器の取り替え
- 工事に付帯して必要なリフォーム
1つずつ解説します。
2-1.手すりの取り付け
住宅の以下のような箇所での転倒防止や移動、移乗などの動作を補助することを目的とした手すりの取り付けは、介護保険制度の対象です。
- 廊下
- 階段
- トイレ
- 浴室
- 玄関
手すりの形状に指定はないものの、取付工事が不要な置き型の手すりなどは介護保険の対象外となるため注意してください。
2-2.段差の解消
床の段差を解消するリフォームも介護保険の対象です。室内だけでなく、玄関から道路までの通路の段差解消リフォームも含まれます。工事内容の例は、以下のとおりです。
- 敷居を低くする工事
- スロープを設置する工事
- 浴室・脱衣室間の段差解消工事
このようなリフォームを行うことで、転倒を防止できたり車椅子でスムーズに移動できるようになったりします。
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2-3.扉の取り替え
開き戸を、以下のような扉に取り替えるリフォームも介護保険の対象です。
- 引き戸
- 折れ戸
- アコーディオンカーテン
開き戸は手前に引く・奥に押す動作とスペースが必要で、体が不自由な方や車椅子利用者には開閉が負担になります。扉を変更することでスムーズに開閉でき、負担を軽減できます。
2-4.床の材質変更
床の材質変更も介護保険の対象リフォームの1つで、転倒防止やスムーズな移動を目的としています。たとえば、車椅子で移動しやすくするために、居室を畳からフローリングへ変更するリフォームが挙げられます。
また、フローリングを滑りにくいクッションフロアに変更するリフォームや、浴室の床や屋外の通路を滑りにくいものに変更するリフォームも対象です。
2-5.便器の取り替え
便器の取り替えも、介護保険の対象リフォームです。一般的には和式便器から洋式便器への取り替えが想定されていますが、介護を必要とする方が利用しやすくなるよう便器の位置や向きを変更するリフォームも対象です。
また、便器を取り替える際に発生する、水道管や排水管の設置や交換・修理などを行う給排水設備工事も対象になります。
ただし、以下のような工事は対象外となるため注意してください。
- 洋式便器を暖房便座に変更
- 洋式便器を洗浄機能付き便座に変更
- 汲み取り式や簡易水洗式のトイレを下水道に直結した水洗トイレへ変更
あくまでも、介護を必要とする方の移動などの負担を軽減するリフォームが対象です。
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2-6.工事に付帯して必要なリフォーム
これまで紹介した5つのリフォームに付帯して必要な工事も、介護保険制度の対象です。たとえば、以下のようなリフォームが挙げられます。
- 手すり取り付けのための壁の下地補強
- 浴室の段差解消にともなう給排水設備工事
- 扉を取り替えるための壁または柱の改修
ただし、すべての付帯工事が補助の給付対象になるとは限りません。申請前に自治体の窓口などへ問い合わせて確認しておきましょう。
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3.介護保険制度でリフォームするメリット
介護保険制度を活用してリフォームするメリットは、おもに以下の2つです。
- バリアフリーリフォームの費用を抑えられる
- 介護を必要とする方が生活しやすくなる
それぞれ見ていきましょう。
3-1.バリアフリーリフォームの費用を抑えられる
バリアフリーリフォームの経済的な負担を軽減できるのは、介護保険制度を活用したリフォームの大きなメリットです。前述のとおり、手すりの設置や段差解消などの対象リフォームを行う際に、最大18万円の補助を受けられます。
たとえば、20万円のリフォームを行った場合に1割負担の対象なら、最終的に支払う金額は2万円で済みます。自治体の助成金制度などが併用できる場合は、さらに費用負担の軽減が可能です。自治体の助成金制度については「5.介護保険制度でリフォームする際のポイント」で後述するので、ぜひ参考にしてください。
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3-2.介護を必要とする方が生活しやすくなる
介護保険制度を活用したリフォームは、介護者の負担を軽減できるだけではありません。介護が必要な方が安全に自立した生活を送れるようになり、日常生活の質が向上することもメリットです。
手すりの設置や段差解消などのリフォームは転倒リスクを軽減でき、介護が必要な方の日常生活の動線が大きく改善されます。介護者の手を借りなくても自分で生活動作ができるようになると認知機能や身体機能が維持されやすくなり、介護が必要な方の自己肯定感の向上にもつながります。
4.介護保険制度でリフォームする際の流れ
介護保険制度を活用してリフォームしたいものの、申請の流れがわからない方も多いのではないでしょうか。ここからは、以下の5ステップで申請の流れを解説します。
- ケアマネジャーへ相談
- リフォーム業者との打ち合わせ
- 市区町村へ事前申請
- リフォーム工事の開始~完了
- 市区町村へ事後申請
順番に見ていきましょう。
4-1.①ケアマネジャーへ相談
まずは担当のケアマネジャーに、リフォームの必要性などについて相談しましょう。ケアマネジャーは介護が必要な方の身体状況や生活環境を把握しているため、どの部分をリフォームすべきかアドバイスしてくれます。
リフォームの必要性をまとめた「理由書」の作成も、ケアマネジャーに相談する際に依頼しておきましょう。なお、理由書はケアマネジャーのほか、以下の資格を持っている方も作成できます。
- 作業療法士
- 理学療法士
- 福祉住環境コーディネーター(2級以上)
ただし、特別な理由がない限り、理由書の作成はケアマネジャーでよいでしょう。
4-2.②リフォーム業者との打ち合わせ
続いて、具体的なリフォーム内容についてリフォーム業者と打ち合わせを行います。ケアマネジャーにも同席してもらうことで、より専門的な視点から打ち合わせを進められます。
このタイミングで、リフォーム箇所の現地調査や図面・見積もり作成をしてもらいましょう。なお、見積もりを取る際は複数のリフォーム業者へ依頼し、費用や対応などを比較することをおすすめします。
4-3.③市区町村へ事前申請
リフォーム内容が決まったら、工事を開始する前に市区町村の介護保険担当課などで事前申請を行います。事前申請に必要な書類は、以下のとおりです。
必要書類 | 概要 |
---|---|
住宅改修の支給申請書 |
住宅改修の費用を介護保険で申請するための書類 |
住宅改修が必要な理由書 |
住宅改修が必要な理由をまとめたもの |
工事費の見積書 |
リフォーム業者に作成してもらう見積書 |
完成予定の状態がわかる資料 |
写真や簡単な図を用いたもの |
申請をスムーズに進められるように、必要な書類を把握しておきましょう。なお、工事費用の支払い方法は以下の2種類があります。
- 償還払い:工事費用の全額を一時的に負担
- 受領委任払い:自己負担分(1~3割)のみの支払い
償還払いでの支払いが一般的です。受領委任払いは自己負担分のみの支払いで済むものの、自治体によっては対応していなかったり事前申請の承認に時間がかかったりする可能性があります。
4-4.④リフォーム工事の開始~完了
事前申請の承認後は、計画どおりにリフォームを実施します。リフォーム前とリフォーム後の写真が事後申請の際に必要になるため、リフォーム業者に撮影を依頼しておきましょう。
4-5.⑤市区町村へ事後申請
リフォーム工事が完了したら、以下の書類を市区町村の窓口へ提出します。
必要書類 | 概要 |
---|---|
工事費の領収書 | 工事費の支払いを証明する書類 |
工事費の内訳書 | 実際にかかった費用の内訳を確認できる書類 |
改修前・改修後の写真 | 改修箇所ごとの工事前後の状態がわかる写真 ※撮影日がわかるもの |
住宅所有者の承諾書 | 利用者本人以外が所有する住宅を改修した場合に必要 |
事後申請の審査に通ると、指定の口座に介護保険給付金が振り込まれます。
5.介護保険制度でリフォームする際のポイント
介護保険制度を活用してリフォームする際は、以下のようなポイントを押さえておくことで、費用を抑えられたりスムーズに進めることができます。
- 市区町村の助成金制度を併用する
- 減税制度を利用する
- 介護保険制度のリフォーム経験が豊富な業者を選ぶ
1つずつ確認していきましょう。
5-1.市区町村の助成金制度を併用する
自治体によっては、介護保険制度の住宅改修と併用できる助成金制度が用意されています。東京都港区と大阪府大阪市の助成金制度の例を見てみましょう。
自治体名 | 制度名 | 補助金額 | 対象工事 |
---|---|---|---|
東京都港区 | 高齢者自立支援住宅改修給付(設備給付) | 上限37.9万円 | ・浴槽交換 ・キッチン交換 ・洗面台交換 ・便器の様式化 など |
大阪府大阪市 | 高齢者住宅改修費給付事業 | 上限30万円 | 介護保険の住宅改修と同時に行われる、給付対象外の工事 |
自治体の助成金制度を併用する場合、基本的には介護保険制度の補助が優先されます。なお、介護保険制度の住宅改修と併用できる助成金制度は、すべての自治体で用意されているわけではありませんので、お住まいの自治体に確認してみてください。
5-2.減税制度を利用する
バリアフリーリフォームを行う際は、一定の要件を満たすことで所得税の控除を受けられます。詳細を以下の表にまとめました。
制度名 | 住宅特定改修特別税額控除(バリアフリー改修工事) |
---|---|
控除対象限度額 | 200万円 |
控除率 | 工事費の10% |
対象者 | ・50歳以上の方 ・要介護または要支援認定を受けている方 ・障害者の方 ・上記に該当する方、または65歳以上の方と同居している方 |
対象工事 | ・通路や出入り口の拡張 ・階段の設置・改良 ・浴室改良 ・便所改良 ・手すり設置 ・段差解消 ・扉の交換 ・床材変更 など |
適用要件 | ・自己所有の家屋 ・令和7年12月31日までに工事を完了して居住 ・工事完了から6ヶ月以内に居住 ・工事後の床面積が50㎡以上で、2分の1以上が居住用 ・工事費が補助金などを除いて50万円超 ・工事費の2分の1以上が居住用部分 |
出典:国税庁「No.1220 バリアフリー改修工事をした場合(住宅特定改修特別税額控除)」
要件を満たす場合は、減税制度を活用してバリアフリーリフォームの費用負担を軽減しましょう。
5-3.介護保険制度のリフォーム経験が豊富な業者を選ぶ
介護保険制度を活用してリフォームする際は、介護保険やバリアフリーリフォームの専門知識・経験が豊富な業者を選びましょう。介護保険制度を利用したリフォーム実績や、過去の施工事例などをホームページなどで確認してみてください。リフォームを予定している部分の施工経験が豊富かどうかも見ておきましょう。
福祉住環境コーディネーターの資格を持つスタッフが在籍しているかどうかも、チェックするポイントの1つです。福祉住環境コーディネーターは、高齢者や障害者に合った住環境をつくるための専門知識を証明する資格のことです。
なお、リフォームの際は複数の業者に見積もりを依頼し、費用などを比較することをおすすめします。リフォームガイドでは、介護リフォームが得意な業者を複数紹介できるだけでなく、希望を丁寧にヒアリングして各業者に伝えるので業者選びの手間が省けます。これから介護保険制度を使ってリフォームする場合は、ぜひ活用してみてください。
6.まとめ
今回は、介護保険制度の住宅改修についてまとめました。「介護保険制度の住宅改修」を活用すれば、手すりの設置や段差解消などのリフォームで最大18万円の補助を受けられます。そのため、リフォーム費用を抑えながら安全な住環境を整えられます。
介護保険制度の住宅改修を活用する場合は、専門知識と豊富な経験を持つ業者を選ぶことがポイントです。本記事を参考にして介護保険制度を活用したリフォームを行い、介護負担の軽減および介護が必要な方の自立した生活を実現しましょう。