
屋根からの落雪が、思わぬ近隣トラブルや重大な事故につながるケースが後を絶ちません。
雪止めにはご自宅とご家族を守り、近隣とのトラブルを回避する重要な役割があります。一般的に雪止めの設置に厳密な法的義務はありませんが、無用なトラブルを避けるために、お住まいの環境に応じて適切に設置すべき設備です。
この記事では、屋根の雪止めの必要性や法的リスク、どんな種類を選ぶべきかの判断チャートや後付けにかかる費用相場、そして近年トラブルが増えている「太陽光パネル」設置時の注意点までを網羅的に解説します。
1.屋根の雪止めとは?

屋根の雪止めが具体的にどのような役割を果たし、どのような住宅で必要とされるのか、その基本について確認していきましょう。
1-1.雪止めは必要?役割と目的
雪止めとは、その名の通り、屋根に積もった雪が地面へ滑り落ちるのを防ぐために設置される部材のことです。
屋根に雪止めを設置する主な目的は、以下の3点に集約されます。
- 人への被害を防ぐ(対人事故防止)
- 隣家への被害を防ぐ(近隣トラブル防止)
- 自宅の雨樋を守る(建物保護)
落下する雪による人身事故を防ぐ安全装置としての役割に加え、隣家への落雪による近隣トラブルや物損事故を防ぐことが雪止めの最も重要な役割です。
さらに、屋根に積もった雪を屋根上に留めることで、軒先の雨樋が雪の重みで破損するのを防ぐという、自宅の建物自体を守るという役割も担っています。
1-2.雪止めを設置すべき住宅
「すべての家に雪止めが必要」というわけではありませんが、次のような条件に当てはまる場合は設置が推奨されます。
- 屋根の軒先の下を人が通る場合
- 軒先と隣家との距離が近い場合
- 雪が積もりやすい地域にある家
玄関アプローチなど屋根の軒先の下を人が日常的に通る住宅や、隣家との距離が近く落雪により被害を与える可能性がある住宅には、安全確保とトラブル防止の観点から雪止めの設置を推奨します。
雪止めは豪雪地帯特有のものではありません。逆にあまり降雪の無い地方において、突発的な大雪で被害が拡大しやすい傾向があります。雪止めを設置しておくと、その際のトラブルの回避につながるでしょう。
2.屋根の雪止めを付けないリスクと法的責任
雪止めを設置することに、一般的に法的な責任はありませんが、設置しないことで問題につながることがあります。
雪止めを設置しないことで生じる具体的なリスクと、法的な観点からの責任について解説します。

2-1.雪止めをつけないことのデメリット
雪止めがない屋根には、次の3つのリスクが潜んでいます。
- 対人・対物事故のリスク
- 自宅への被害
- 心理的なトラブル
[1]対人・対物事故のリスク
屋根の雪の塊が滑り落ちると、隣家のカーポートの破損や植木の損傷、境界フェンスの倒壊といった物損事故を招く可能性があります。
特に深刻なのは人身事故で、硬く締まった雪や氷が通行人に直撃した場合、打撲や骨折、最悪の場合は命に関わる重大な怪我を負わせてしまうリスクもあるのです。
[2]自宅への被害
雪止めがない場合は屋根に積もった雪が一度に軒先へ押し寄せ、その重みで雨どいが曲がったり、破損したりする原因となります。雨樋の修理や交換は、高所作業のため足場が必要となり、費用が十数万円から数十万円と高額になるケースもあります。
[3]心理的なトラブル
「隣家の屋根から雪が落ちてきそうで怖い」と近隣の方に思わせてしまうこと自体がリスクです。一度恐怖心や不信感を持たれると、その後のご近所付き合いに影を落とすことになりかねません。
屋根の「片側」しか雪止めが付いていないケースも
分譲住宅などでは、コストカットの観点から人目に付きやすい道路側のみにしか雪止めが付いていないケースが見られます。
しかし、実際にトラブルになりやすいのは建物の裏側や側面です。隣家に接近している屋根に雪止めがない場合は、早急な対策を検討することをおすすめします。
2-2.法律で雪止めの設置は義務付けられている?
雪止めの設置は建築基準法で全国一律に義務付けられているわけではありません。ただし、多雪地域などでは自治体の条例により設置が必須となる場合があります。
より重要なのは「民法上の責任」です。たとえ条例での義務がなくとも、屋根からの落雪で他人の物を壊したり怪我をさせたりした場合、所有者は損害賠償責任(民法717条)を負う可能性が高くなります。毎年のように降る雪に対し「自然災害だから仕方ない」という不可抗力は通用しません。
法的義務の有無にかかわらず、近隣トラブルや賠償リスクを避けるため、雪止めの設置は所有者の重要な責務と言えます。
3.雪止めの後付け工事は可能?費用相場と工期
「新築の時に付けていなかったけれど、やっぱり付けたい」そう思った時、後からでも雪止めは設置できるのでしょうか?
3-1.雪止めは基本的に後付け可能
ほとんどの屋根材において、雪止めの後付けは可能です。
現在普及している一般的なスレート屋根であれば、既存の屋根材の隙間に金具を差し込んで固定する方法がありますし、日本瓦や洋瓦などの瓦屋根であれば、既存の瓦の一部を雪止め瓦に差し替えるといった方法で対応できます。
ただし、屋根材自体が著しく劣化している場合は、雪止め金具を固定する強度が確保できないため、雪止めをつける前に屋根の補修や葺き替えが必要になることがあります。
【注意】雪止めの設置が難しい屋根も
「アスファルトシングル」と呼ばれる屋根材は注意が必要です。アスファルトシングルは屋根材同士が接着剤で貼り付けられているため、後から雪止め金具を差し込む隙間がありません。
このような場合は、屋根材に差し込むのではなく、軒先に設置する「ネット(フェンス)タイプ」であれば設置できる可能性があります。
3-2.後付け雪止めの費用相場
雪止めを後付けする場合の費用は、15万円~40万円程度が相場です。「雪止めの種類」と「足場の有無」によって費用は大きく変わります。
| 雪止めの種類 | 工事総額の目安 | 内訳 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 一般的な金具タイプ | 15万円〜25万円 |
|
スレート・金属屋根用などに設置するタイプ |
| アングル・ネットタイプ※ | 20万円〜40万円 |
|
金具タイプより雪止め効果が高い |
※ ネットタイプは製品自体が高価なため、設置する範囲によってはさらに費用がかかる場合があります。
雪止めの設置に補助金は使える?
雪止めの設置そのものに対する国の補助金制度は基本的にありません。
しかし、豪雪地帯の自治体などでは、「克雪対策」や「住宅リフォーム助成」の一環として、雪止め設置や融雪設備の導入に対して補助金が出る場合があります。まずはお住まいの地域の役所窓口やWebサイトで確認してみることをおすすめします。
3-3.費用を抑えるためのポイント
見積もりを見て高いと感じる原因の多くは、実は足場代によるものです。上記の相場を見てお分かりの通り、費用の半分近くを足場代が占めています。
「金具をつけるだけなのに足場が必要なの?」と思われるかもしれませんが、屋根の勾配(傾き)がきつい場合や、2階以上の屋根で作業をする場合、職人の安全確保と確実な施工のために足場は必須です。
費用を抑える最も賢い方法は、足場を必要とする他の工事とセットで行うことです。
足場を必要とする工事の例
- 屋根塗装・外壁塗装
- 雨樋の交換・修理
- 太陽光パネルの設置
これらの工事を行うタイミングに合わせて雪止め設置も依頼すれば、足場代を一度分にまとめることができ、実質的に数万円〜十数万円の節約になります。
そろそろメンテナンスの時期かな?と思ったら、雪止めの設置を合わせて検討するのがベストです。
3-4.DIYで費用は抑えられる?
ホームセンターやネット通販では雪止め金具が販売されていますが、DIYでの設置は推奨できません。
- 転落事故のリスク
慣れていない人が屋根に上がるのは極めて危険です。雪止めが必要な屋根は滑りやすく、命に関わる事故につながります。 - 雨漏りの原因になる
取り付け方を間違えると、屋根材を破損させたり、隙間から雨水が侵入して雨漏りの原因になったりします。 - 施工不良
固定が不十分だと、雪の重みに耐えきれず、雪止めごと落下してくる危険があります。
プロに依頼するメリットは単に安全なだけではありません。屋根に上がったついでに、普段自分では見えない「瓦の割れ」や「板金の浮き」などの劣化箇所を点検してもらえます。
また、屋根の強度や勾配に合わせて、最適な雪止めの種類と必要な数を計算してくれるため、安心感が違います。万が一の施工不良があった場合のアフターフォローが期待できるのも大きなポイントです。
4.【チャート式】屋根雪止めの種類と選び方
雪止めには様々な種類がありますが、「どれを選べばいいかわからない」という方も多いと思います。
リフォームの際には、次のフローチャートを参考に、ご自宅に最適な雪止めを選択してください。

4-1.雪止めの種類と素材・選び方一覧
雪止めを選ぶ際に検討すべき「形状(種類)」と、それぞれの「素材の選び方」を表にまとめました。
| 名称 | 特徴 | 設置方法 | 素材による違い |
|---|---|---|---|
| 雪止め金具 【効果:△】 |
最も一般的な雪止め 「点」で雪を止める 種類が豊富(L字型・扇型・羽根付きなど) ※羽根付きが最も強力 |
屋根材の隙間に差し込み固定 |
|
| 雪止めアングル 【効果:〇】 |
「線」で止めるため金具より強力 雪が隙間から落ちるのを防ぐ |
軒先に平行に長い金属バー (L型断面)を取付 |
雪の重量を受け止める強度が必要なため、 耐久性の高いステンレス製を選ぶのが最も安心 |
| 雪止めネット 【効果:◎】 |
落雪防止効果は最強クラス つららの落下防止にもなる |
軒先付近に高さのある 金網やフェンスを設置 |
高耐久なステンレス製やアルミ製で 作られているものが多い |
| 雪止め瓦 【効果:△】 |
屋根と一体化するため目立たない | 突起がついた瓦 既存の瓦と差し替え |
素材は屋根瓦と同じ 金属製のような錆びの心配がなく、耐久性が高い |
屋根の「もらい錆び」に注意
安価だからといって鉄製(亜鉛メッキ等)の雪止めを選び、それが経年劣化で錆びると、その錆が雨水で流れ出して屋根材に付着します。
美観の問題だけではなく、金属屋根の場合には屋根自体を錆びさせてしまう「もらい錆び」が発生することがあります。
屋根を長持ちさせるためにも、多少コストがかかってもステンレス製やアルミ製などの錆びにくい素材を選ぶことを強くおすすめします。
4-2.風や雪の重みに対する強度
プロが正規の方法で施工していれば、雪止めが風で飛ぶことはまずありませんが、フェンスタイプのものは風を受けて曲がったりズレたりする可能性があります。
また、想定外の大雪が降った際に雪止めが雪の凄まじい重みで曲がってしまうこともあり得ます。
大雪が降った年や台風が過ぎ去った後は、下から双眼鏡などで屋根を見て、金具が曲がったり外れかけたりしていないかチェックすることをおすすめします。
雪止め修理に火災保険は使える?
加入されている火災保険の契約内容にもよりますが、一般的に「風災・雪災補償」が含まれていれば、自然災害で被害に遭った箇所の復旧に保険が使えます。
豪雪時に積もった雪の重みで曲がってしまったり、強風で損傷を受けたという場合には、保険金で修理・交換できる可能性があります。


5.太陽光パネル設置住宅の雪止め
近年、急速に普及している太陽光発電システムですが、実は太陽光パネルと雪の相性は非常に悪く、新たなトラブルの火種となっています。
5-1.太陽光パネルの上を雪が滑る「滑雪」の危険性
太陽光パネルの表面は強化ガラスで非常に滑りやすいため、積もった雪が一気に滑り落ちる「滑雪(かっせつ)」現象を引き起こします。
ガラス面で加速した雪は、通常の屋根よりも遠くへ飛んでいく特性があります。勢いがついた雪が隣家の敷地や道路まで飛び出し、車や通行人を直撃する事故が多発していることを知っておきましょう。
5-2.太陽光パネルがある場合の雪止め対策
ご自宅の屋根に太陽光パネルを設置している、またはこれから設置する予定がある場合は、通常の雪止めではなく、以下の対策を強く推奨します。
[1]背の高い「ネットタイプ」「フェンスタイプ」の雪止め
パネルから勢いよく滑り落ちてきた雪を物理的に受け止めるためには、高さが必要です。
高さ20cm〜30cm以上あるネット状やフェンス状の雪止めであれば、勢いのある雪もしっかりとキャッチできます。
[2]設置位置の計算
雪止めを設置する際、パネルに雪止めの影がかかってしまうと発電効率が落ちてしまいます。
「影にならない位置」かつ「落雪を確実に防げる位置」を計算して設置する必要があります。
必ず経験豊富な専門業者に相談しましょう。
6.まとめ
屋根の雪止めは、決して「あってもなくてもいい飾り」ではありません。あなた自身の家を守り、そして何より近隣の方々の安全と良好な関係を守るための「リスク管理」そのものです。
「うちは大丈夫かな?」と少しでも不安を感じたら、本格的な雪のシーズンが来る前に、一度専門業者に点検を依頼してみてはいかがでしょうか。早めの対策が、安心な冬の暮らしにつながります。
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